古文の識別について何本か記事を書いてきましたが今回は「ぬ」と「ね」の識別問題についてまとめてみようと思います。
この2つは入試問題を解いていても本当によく出てくる問題です。とはいっても別にそんなに難しいというわけではなく、パターンを覚えてしまえば難なく対処できるはず。
今回は現役塾講師の僕がいつも生徒に教えている識別方法をみなさんにもご紹介します。ぜひ最後までお付き合いください。
「ぬ」と「ね」は打消か完了の2択
まず問題として出てくる「ぬ」と「ね」は両方とも助動詞で、打消または完了の意味だということはおさえておきましょう。ちなみに打消の助動詞の終止形は「ず」で完了の助動詞の終止形は「ぬ」です。ここがごっちゃになっている方はまずそれぞれの活用を完璧に覚えてください。
こうやって見比べてもらうと分かりやすいですが、打消・完了どちらの活用にも「ぬ」と「ね」が出てきてしまいます。そのため何形の活用に「ぬ」と「ね」が出てくるのかということは意識しておきましょう。
また、後ほど詳しく解説しますが接続から判別することもあります。打消の「ず」は未然形接続で完了の「ぬ」は連用形接続ということもおさえておきましょう。
※ちなみにナ変動詞「去ぬ」「死ぬ」の一部としても一応「ぬ」が出てきますがこれはナ変を覚えておけば一発で解決するのでここでは解説しません。
「ぬ」の識別方法
まず、「ぬ」の見分け方について考えてみたいと思います。文中に「ぬ」があったとき次のルールを使って見分けることができます。
先ほども確認しましたが未然形には打消の「ず」が接続し、連用形には完了の「ぬ」が接続します。未然形と連用形の見分け方は「ず」をくっつけてみて判別すれば大丈夫なので簡単ですよね。不安な方は一応確認しておきましょう。
例を挙げると以下のようになります。
①:花、咲かぬ
→「咲か」は四段動詞「咲く」の未然形なので「ぬ」は打消。
②:花、咲きぬ
→「咲き」は四段動詞「咲く」の已然形なので「ぬ」は完了。
「ね」の識別方法
次に「ね」の識別方法ですが、これも基本は「ぬ」のパターンと同じです。未然形にくっついていたら打消、連用形にくっついていたら完了と判別してください。
例を挙げると以下のようになります。
①:嵐やまねど、出でぬ
→「やま」は四段活用動詞「止む」の未然形なので「ね」は打消。
②:嵐やみね
→「やみ」は四段活用動詞「止む」の連用形なので「ね」は完了。
まずは接続から見分けるというのが基本なのですが、これでは対応できないケースが存在します。次はそれらについて詳しく見ていきましょう。
発展編①:接続の形から識別できないパターン
実際に入試問題レベルでよく問われるのが接続の形からは判別ができないパターンです。具体的には未然形と連用形が同じ形のときです。
例えば次のようなケースはどうでしょうか。
①:京には見えぬ鳥
②:教へぬべきものなり
「見え」は下二段活用動詞「見ゆ」、「教へ」は下二段活用動詞「教ふ」なので未然形も連用形も形が一緒です。こういったケースでは活用形から識別をします。
まず①では「ぬ」の後ろに「鳥」という体言がありますよね。このことからここの「ぬ」は連体形だと分かります。連体形に「ぬ」が出てくるのは打消の助動詞「ず」です。
一方②では「ぬ」の後ろに「べき」と続いています。これは推量・可能・当然・命令・適当の「べし」ですよね。そして「べし」は終止形接続なのでここの「ぬ」は終止形。つまり完了の助動詞「ぬ」ということが分かります。
このように接続から判別できない場合は後ろの言葉をヒントとして活用形から識別をしていきます。そのため打消の「ず」と完了の「ぬ」の活用形を覚えることはマストなのです。また、②のケースのように他の助動詞が何形に接続するか覚えていないと太刀打ちできないこともあるため1つ1つの接続を覚えていくことが重要です。
発展編②:文末で係り結びを受けているパターン
もう1つ注意したいケースが文末に係り結びが起きているときです。例えば次のような文を考えてみましょう。
・昔の直衣こそ忘れられね
文末にあるので命令形→ということは完了の助動詞「ぬ」だと判断してしまいがちですが、係助詞「こそ」があるのを見落とさないでください。
「こそ」があったとき結びの語は已然形になりますよね。だからここの「ね」は已然形→つまり打消の助動詞「ず」ということになります。
このように文末に「ね」「ぬ」があったときは必ずしも終止形・命令形だということにはなりません。文法問題を解く際には係り結びが起きていないかを常に注意してみていくことが大事です。
「ぬ」と「ね」の識別の練習問題
ここまで勉強してきたことを使って、識別問題に挑戦してみましょう。
問題
問:次の太字部分は①~③のどれにあたるか答えなさい。
・みな人は苔の衣になりぬなり
・河内へいぬる顔にて見れば
・春の夜のあやなし梅の花色こそ見えね香やはかくるる
・とく立ち去りね
・いとやむごとなき際にはあらぬが
①:打消の助動詞「ず」の連体形
②:打消の助動詞「ず」の已然形
③:完了の助動詞「ぬ」の終止形
④:完了の助動詞「ぬ」の命令形
⑤:動詞の一部
解説
・みな人は苔の衣になりぬなり
→正解は③。四段活用動詞「なる」の連体形「なり」に接続している。
・河内へいぬる顔にて見れば
→正解は⑤。「去ぬ」はナ行変格活用動詞。
・春の夜のあやなし梅の花色こそ見えね香やはかくるる
→正解は②。係助詞「こそ」があるので結びは已然形になる。
・とく立ち去りね
→正解は④。四段動詞「去る」の連用形に接続している。
・いとやむごとなき際にはあらぬが
→正解は①。ラ行変格活用動詞「あり」の未然形に接続している。
さて、全問正解できたでしょうか。間違えてしまったところは識別の仕方をもう一度振り返り、なぜ間違えたのかがハッキリするまで復習をしておきましょう。
まとめ
「ぬ」と「ね」の識別でまずやるべきことは活用の仕方と接続を覚えることです。
簡単な問題なら接続を見るだけで識別をすることができますが、未然形と連用形が同じ形の場合は注意が必要で、活用形から判断するしかありません。
また、文末に「ぬ」と「ね」が置かれているときも要注意で、係り結びを受けていないかどうかは常に気を配るようにしてください。
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