古文の敬語を勉強していると必ず出会う「敬意の方向」という問題。学校の授業ではサラッと解説されることも多く、「あれ?何だっけ?」となることも多いですよね。
ただ、「敬意の方向」は入試でも聞かれますし、人物関係を知るためには必須の事柄となっています。この記事では誰でもわかるように「敬意の方向」について解説をしています。ちょっとでも不安に思う方は最後まで読み進めてみてください。
敬意の方向とは?なぜ重要なのか
まず「敬意の方向」とは誰から誰へ敬意が払われているかということです。現代でも敬意というのはあり、例えば部活の先輩に対して敬意を払うとか、上司や社長に対して敬意を払うなど皆さんもイメージが湧くと思います。
平安時代などには身分という考え方がありますから、敬語や敬意については今の時代よりもっと厳格です。そのため、古文の中には頻繁に登場して問題にもされやすいということですね。
でも、なぜ「敬意の方向」がそんなに大事なのでしょうか。その理由は人物関係が分かるからに尽きます。古文を読んでいると「コイツ誰なんだ…?」という場面に出くわすことが多いですよね。これは主語が省略されているからなのですが、「敬意の方向」をヒントにすると誰と誰が話しているかを見分けることができます。
例えば今の感覚で言うとこんな感じです。
A「サッカーの練習キツイですよね。早く家に帰って寝たくないですか?」
B「まあ、そうだけど練習はサボれないからな。次の大会で優勝できるように頑張ろうぜ。」
こんな会話があるとすると、AさんからBさんへ敬意が払われているのが分かると思います。おそらくAが後輩でBが先輩だと2人の関係が想像できますね。これは現代語の例ですが、古文も同じように敬語によって登場人物の関係性が特定できるのです。
敬意の方向の種類と見分け方
「敬意の方向」は簡単に言うと①誰から②誰へ敬意を払っているのかということです。それぞれに分けて解説をしようと思います。
①誰からの敬意なのか見分けるポイント
まず①誰からという部分は文脈に応じて異なりますが、次のような公式があります。
1…地の文なら筆者から
2…会話文なら話し手から
「地の文」というのは会話文以外の部分のことです。当たり前ですが文章を書いているのは物語の筆者ですので、そこに出てくる敬語は筆者からの敬意ということになります。
一方、「会話文」というのは鍵カッコで囲まれたセリフの部分です。筆者ではなく登場人物が話している部分なので、そのセリフを話している人から敬意が払われていることになります。
②誰への敬意なのか見分けるポイント
次に②誰への敬意なのか見分けるポイントは次の3つです。
1…尊敬語→動作の主体への敬意
2…謙譲語→動作の対象への敬意
3…丁寧語→話し相手への敬意
1.尊敬語の場合
尊敬語の場合は、動作の主体に対して敬意が払われています。例えば次の例文を読んでみてください。
中将、姫君を助け給ふ
(中将が姫君をお助けになる)
上の例文では「給ふ」という尊敬語が使われています。この「助ける」という行為をしているのは中将ですよね。そのためこの「給ふ」というのは中将への敬意を表しているということになります。
ちなみに、これは地の文に書かれているのでより正確に言うと作者から中将への敬意が払われています。
実は「給う」という単語はもう少し厄介で謙譲語もあるのですが…上級者向けの情報になるので別記事でまとめています。興味がある方はコチラも読んでみてください。
>>【古文】「給ふ」の謙譲語と尊敬語の見分け方が100%わかる解説
2.謙譲語の場合
謙譲語の場合には動作の対象へと敬意が払われています。これも例文で確認しましょう。
男、姫君に御文奉る
(男が姫君に手紙を差し上げた)
ここでは、謙譲語の「奉る」が使われています。男は姫君に手紙を出しているので、この「奉る(差し上げる)」という行為が向かう先は当然姫君ですよね。そのためこの「奉る」は姫君への敬意を指していることになります。
ここでも地の文に書かれているため作者から姫君に対する敬意です。男からの敬意だと間違えないようにしてください。
3.丁寧語の場合
丁寧語の場合は話し相手(聞き手)への敬意となります。この例文は以下の通りです。
ある人、女に尋ねて曰はく、「いかが侍らむ」
(ある人が女に尋ねて「どうでしょうか」と言った。)
ここでは丁寧語の「侍り」が使われています。ある人が女に話しかけている場面なので、聞き手は女となります。そのため、女に対する敬意が払われているというのが正解です。
また、ここでは会話文になっているので、正確に言うとある人から女に対する敬意が払われていることになります。
二方向への敬意
さて、「誰から誰への敬意」なのか整理できたところで、もう1つレベルを上げて覚えておいてほしいのが「二方向への敬意」というものです。
どういうことかと言うと、1つの文の中で2人に敬意が払われることがあるということです。入試ではこのレベルまで求められてしまいますが、分かりにくい部分なので例文を使って解説をしていきます。
かぐや姫、公に御文奉り給ふ
(かぐや姫は天皇にお手紙を差し上げなさる)
上の文章では「奉る」という謙譲語と「給ふ」という尊敬語が同時に使われています。もう一度確認しておくと、敬意の方向は以下のようになるんでしたね。
・尊敬語…動作の主体に対する敬意
・謙譲語…動作の対象に対する敬意
ということは謙譲語の「奉る」は帝に対する敬意であり、尊敬語の「給ふ」はかぐや姫に対する敬意ということになります。もちろんこれは地の文ですから「誰から」という部分は両方とも作者からの敬意です。
これは「敬意の方向」の中でも複雑なタイプの問題ですが、これが完璧におさえることができれば入試でも怖いものはありません。最後に演習問題を通して仕上げをしておきましょう。
敬意の方向の練習問題
では、最後に「敬意の方向」の練習問題を載せておきます。これを解いてみて今まで説明してきたことが本当に理解できているかを確かめてみてください。
練習問題
問:次の太字部分は「誰から誰への敬意」か答えよ。
①:(若紫は)尼君を恋ひ聞こえ給ひて
②:三位の中将、泣く泣く額の髪を喰ひきって(妻に)奉り給ふ
③:殿、姫に「めでたき琴侍り」と言ふ
解答
①:「聞こえ」は謙譲語なので作者から尼君への敬意、「給ひ」は尊敬語なので作者から若紫への敬意。※地の文に書かれていることに注意
②:「奉り」は謙譲語なので作者から妻への敬意、「給ふ」は尊敬語なので作者から三位の中将への敬意。※地の文に書かれていることに注意
③:「侍り」は丁寧語なので、殿から姫への敬意※会話文に書かれていることに注意
上記のようになります。すべて正解できたでしょうか。もし間違えてしまったらこの記事をもう一度読み返したりまとめたりして完璧に自分のものにしてください。
まとめ
今回は「敬意の方向」についてどこよりも詳しく解説したつもりです。「誰から」という部分は地の文なのか会話文(手紙文)なのかによって変化し、「誰への」という部分は尊敬語・謙譲語・丁寧語のどれが使われているかで決まります。
まず尊敬・謙譲・丁寧語の区別をつけることが必要ですが、それさえ分かってしまえば全く怖くはありません。この内容をしっかりと見返して、「敬意の方向」についてマスターしてください。
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